1年間のりんご生産体験レポートby谷さん
はじめは体験者としてりんご生産体験に参加した谷さん(以前のインタビューはこちら)。今は大阪と青森を行き来する2居住生活をされています。そんな谷さんに、この1年間のりんご生産体験のことを振り返ってもらいました。
はじめまして、谷です。自分は現在、大阪府泉佐野市と青森県弘前市を行き来する2居住生活を送っています。りんご生産が忙しい時は青森に行って作業を手伝ったり体験者さんの引率をしたり、逆に手が空く時期は大阪で泉州アグリのスタッフとして野菜を栽培したり、販売や配達などをしています。
今日は昨年5月〜今年3月までの1年間のことを振り返りつつ、りんご栽培のことをご紹介したいと思います。
摘花作業
5月頃の作業は主に摘花です(園主さんによっても時期は異なってきます)。りんごの花は1つの芽から中心花と5つの花が咲くのですが、その中の中心花だけ残し、周りの花を摘んでいく作業が『摘花』です。りんごを大きくする為に間引きをするイメージです。
摘む花は決まっているので作業自体は難しいものではありませんが、手の動かし方や慣れで作業の速さは変わってきます。その他のコツとしては脚立の置く位置でしょうか。脚立に登ってみると思った所に手が届かなかったり、枝が邪魔になったり。慣れている人は自分の手の届く範囲を分かっているので、効率よく作業を進められます。
あと、この時期はりんごの花の時期で、園地にりんごの花が沢山咲いている景色が綺麗だなぁと思ったのが印象に残っています。
摘果作業
りんごは多く実がなる為、間引いてあげないと大きくならないという性質があります。あと、実がなり過ぎると重みで木が折れてしまうという事もあります。なので、『摘花』に続いて『摘果』、今度は実を間引いていきます。だいたい6月〜7月の作業です。
一次摘果、二次摘果、仕上げ摘果と段階があって、それぞれでどのように摘果するのかが変わってきます。特に二次摘果や仕上げ摘果は、秋に実がなる様子を思い浮かべながら、何を残すかを考えながら摘果をする、難しい作業です。実が育った時に当たり合わないなど以外にも、熟練の農家さんだと「この台木にはいい実がなるから残す」なども考えているので、経験則が必要になってきます。
なので体験者さん達には6つある実の中の1つだけ残してもらう、「ひとつなりにする」という作業をしてもらっています。りんごの花が咲く期間が一週間程度と短い為、摘花しきれず果実になる部分が発生するため、それらを間引いていく作業です。
自分は長く作業に入っている事もあり仕上げ摘果をさせてもらったこともありますが、まだ踏み込みが足りず残しすぎだと言われることもあり、なかなか一筋縄ではいきません。
りんご以外では、7月には田んぼアートを体験者さん達と見に行きました。
着色管理
8月〜9月は主に着色管理と呼ばれる作業です。りんごを全体に赤く色付かせる為に、ムラなく光が当たるようにしていきます。
上の写真はその作業のひとつで、りんごの木の下に反射シートを敷くことで実の下側に光が当たるようにしています。
もうひとつ『つる回し』という作業もあり、それはりんごを180度回転させて、光が当たってない面を太陽に向ける作業になります。実が木に触れているものは回す時に傷がつくので注意し、また、あまり回し過ぎると実が落ちてしまうこともあるので気をつけて作業します。この作業をしていると時々「どれを回したっけ…?」となることもあるので、1枝毎にきっちり作業していくのがポイントです。
自分たちが体験させてもらっている農家さんは「葉取らずりんご」といって、葉っぱを収穫までつけておくことで、葉っぱで作られる栄養分を最後まで実に届ける方法で作っているため、この着色管理の行程は少し少なめです。葉っぱを全て取って色付きを良くする農家さんもあります。
収穫
10月の後半〜11月が収穫のピークです(10月のはじめの頃はつる回しや、早生(わせ・普通より早くできる品種)の収穫を行います)。収穫する品種は時期によっても異なりますが、弘前フジ、世界一、王林、シナノゴールド、フジなど、色々あります。
片手に手籠を持って、高い所は脚立に登って収穫していきます。りんごは引っ張らなくても、実を上に持ち上げるようにすると簡単に取ることができます。収穫で一番気をつけることは傷を付けないことです。ツルの近くに新芽が出ていると実に刺さることがあるので、注意して収穫していきます。最初は恐る恐る収穫している体験者さんたちも、慣れてくると実の取り方もうまくなり、速度も上がっていきます。
また、この時期、青森でりんご泥棒がニュースになりました。台風被害でりんご価格が高騰していることも要因ではないかと思います。
剪定・剪定の枝の回収・そひ削り
冬の間の1番の作業は剪定です。これは枝を切っていく作業になりますが、熟練の技が必要です。先々のこと、春から夏の作業のやりやすさや、りんごの実への光の当たり方、ひいてはりんごの木の2〜3年後のことまで考えてどこをどう切るかを考える、とても難しいものです。その為剪定作業は行わず、見学をさせて頂いています。実作業としては、剪定した枝の回収が中心です。
また、2〜3月になると『そひ削り』という作業があります。木は古くなってくると角質のように厚みを増していくのですが、それを放っておくと虫が住み着いたり湿気て病原菌の巣になったりするので、そうなる前に樹皮を剥がしていきます。
1年を振り返って
これまでの中で青森にいた時間が一番長い1年でした。ここ3年ほど青森には度々体験に訪れていますが、それでも毎回新しい発見や成長があります。そう思うと、これから先もまだまだ色々な事に出会えるのだろうと楽しみに思います。作業面でも1年目には分からなかったことを見分けられるようになっている実感があります。
ここまで書いてきた事は専門的な、技術的な事もあるので難しそうなイメージを持たれるかもしれませんが、体験の入り口としては軽いものでいいと思います。弘前に興味があってとか、仕事に悩んでいて見識を広げたいとか。その中で、弘前のことやりんごのことをもっと知ってもらったり、農家の人がどんなことをしているのかを体験してもらって、その先には深い部分もあるんだって事を見てもらえたら十分なのかなと。もちろんそこから先に進んでもらえるなら、それはもちろん大歓迎です。
りんご栽培の1年に触れてもらえる記事でしたね。弘前に体験に行くと谷さんに会えるかもしれません。谷さん、レポートありがとうございました。